2011年3月02日(水) | by 管理人 コメントする

今や大学は、単なる高等教育機関ではない。産学連携や、産官学民協働など、その知と資源を社会や地域に開き、市民や住民、企業との協働連携を通じて、社会的イノベーションへの貢献が求められる時代となった。地域づくりに関連して、その興味深い取組み事例がある。立命館大学の産業社会学部がNPO法人と連携協働して行っている地域活性化の取り組み「京北プロジェクト」である。

学びと地域づくりの連携

豆の収穫京北プロジェクトは、京都市京北町(旧北桑田郡京北町、2005年に京都市に合併)を舞台に、立命館大学の産業社会学部とNPO法人フロンティア協会(京都市)が連携協働して取り組んでいる地域活性化プロジェクトである。2008年2月に、産業社会学部と同協会とが包括連携協定を締結し、正式に学部の正課としてスタートした。

もともと、産業社会学部とフロンティア協会との本格的な関わりは、産業社会学部の深井純一教授(現名誉教授)のゼミナールが、小澤亘産業社会学部教授の仲介で農山村地域である旧京北町を学びのフィールドとしたことに始まる。かねてより立命館大学産業社会学部では、専攻の枠組みを超えて柔軟に学ぶ「クロスオーバー・ラーニング」と、実践中心の学びを通じて現代の本質に迫る「アクティブ・ラーニング」を教学の柱に据えていた。京北での活動は、まさに実践を通じた課題発見・問題解決的な学びのフィールドとしてぴったりだったのである。

こうした活動が単なるNPOへのインターンシップにとどまらず、包括協定の締結という形をとったことにも意味がある。包括的な協定を結んだことで、両者は今後、学生の問題意識や活動の高度化に伴い、新しいプロジェクトを学生自らが生み出すような土壌を担保したことになる。こうして、京北プロジェクトは、大学でのアカデミックな学びとNPOのフィールド実践のノウハウとを結合させ、持続可能な地域活性化につなげる役割を目指すことになる。

 

京北プロジェクトと藁つと納豆

京北に備わる「“自生力”―生活と歴史を自ら紡ぎ出す力―」を学び、その学びを、地域の歴史や産業を生かした地域活性化につなげる。こうした視点から、京北プロジェクトでは、次の4つの個別プロジェクトに取り組んでいる。

  1. 藁(わら)つと納豆伝承プロジェクト
  2. 栃の木植栽プロジェクト
  3. 子ども納豆プロジェクト
  4. 地域に城跡が残る中世の城「宇津城」の調査プロジェクト

このなかで、それまでから地域に眠っていた資源を掘り起こして、新しい視点で取り組んでいるのが、「藁つと納豆伝承プロジェクト」だ。

藁つと作り藁つととは、藁を束ね、中へ物を包むようにしたもの。そこに納豆をつめてあるのが、「藁つと納豆」である。京北地域は、知る人ぞ知る「藁つと納豆」の発祥地。由来については、南北朝期に常照光寺を開山した光厳天皇に、村人が味噌にする煮豆を藁つとに包んで差し入れたところ、それが発酵して納豆ができていたという説や、もっとシンプルに、珍味であった藁つと納豆が京北から朝廷に納められていたことから「納豆」と称するようになったという説など、諸説ある。

そんな藁つと納豆発祥の地というユニークな伝承の残る京北地域だが、少子高齢化や近代化が進む地方の例に漏れず、近年、藁つと納豆づくりの伝承者が数少なくなってきているのが悩みだ。京北藁つと納豆伝承プロジェクトは、地域の中で伝承されづらくなった伝統芸を、教育の場というシステムを利用することで伝えていくものといえる。

学生たちは、集落の伝承者の指導のもと、伝統的な大豆栽培と納豆製造を経験する。藁つと納豆作りの過程を通じて地域社会と関わり、「農」を体験。「納豆」という伝統食文化の保存・継承に寄与し、食の安全について考える機会とすることが意図されている。

参加学生は、藁つと納豆というユニークな伝統的食文化(「ソウルフード」)について、地元住民から大豆づくりの初歩の初歩から納豆づくりを習う。そして、京北地域の農村文化・生活、農業や集落の現状、課題などについても、地元の方々との交流を通じて、じっくりと体感的に学び考えることになる。

学びのコミュニティとサービス性

納豆づくりの年間スケジュールは、ざっと以下のような流れになる。

6月下旬に大豆を作付けし、7月中旬に土寄せ作業および圃場草刈作業を行う。8・9月には除草(草引き)作業が入り、10月下旬にいよいよ大豆を収穫。その後、天日干し(はざかけ)、脱穀、選別といった一連の手作業を行い、11月末に地元の小学生たちと一緒に納豆を漬け込むことになる(子ども納豆プロジェクト)。

納豆が完成するのは、漬け込んだ数日後の12月上旬。これを受けて、一年間の学びを地元京北で発表する「京北納豆フォーラム」が開催され、地元住民を交えて皆で試食する。

こうした流れを理解するにあたって、立命館大学が包括協定の意義としてとりあげている「学びのコミュニティ」と「サービス・ラーニング」という考え方はおもしろい。

学びのコミュニティというのは、社会や地域と連携した学びのフィールドのことを意味している。考えてみれば、大学というのは、校内では、教育者と受講者という一方向的な学びの場がどうしても中心になる。一方、現地に出てのフィールドワークの場合も、大学と地域は、観察者と対象という関係になることが多い。しかし、ここで目指される「コミュニティ」とは、どちらか一方向ではなく、それぞれが交流しあうことを意味している。

納豆伝承プロジェクトでも、多くの場面で学習者(学生)は、地域住民とともに考え、活動し、学ぶ。これは、地域と共にやるからこそ可能な学びの仕組みと言えるだろう。

また、サービス・ラーニングというのは、社会や地域の解決すべき課題を顕在化し、サービスとして編み上げることで人材育成と学習課題を結び付けようというもの。講義などで得た知識としての学習成果を、社会的現実において検証し、生きた知識へと転換することが目指されている。

自ら学び、活動していく成果が、藁つと納豆として形になるだけではなく、地域の人たちからの評価として返ってくる。学習者にとって、まさに自らが主体となって、責任感と共に取り組まねばならない形式となっている。そうした意味では、学生は単なる「手伝い」ではなく、地域の責任の一翼を担うものとして期待されていることにもなる。

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