体験交流の盛り上がり
試行錯誤が続く、よふど百姓村によるコミュニティ・ビジネス。一方で、最近になってにぎわいを見せているのが、地域間交流を通した農村体験の提供だ。農村における体験のビジネス化は、多くの集落で目指しながら、確立した成功モデルがない分野かもしれない。
与布土には県立の自然学校が立地し、毎年多くの小学生たちが自然体験を学びに来る。しかしこれまで、体験は学校というフィールド内で完結していたという。そこで地域側で提供可能な体験メニューを作成し、子どもたちに学んでもらおうという動きが、いま始まっている。すでに地域内を案内するマップが作られており、加えて、地域内で体験を提供してくれる人たちのリストアップが進められているところである。
ここで中心になっているのは、農業の活性化を目指す「みのり部会」だ。
文化というのは、引き継ぐ人がいないと廃れる。小学校の統合に象徴される、次代を担う世代が少なくなるなかで、どうして文化を伝えていくか。これまで、わらぞうり作りや農村料理などの文化は、家庭内で親から子へと伝えられていった。少子化で、こうした文化の伝達媒体としての家庭には、大きな期待を抱くことができなくなっている。ならば、別の仕組みに、文化の継承を託すしかない。農村体験の提供は、単なるビジネス化という視点だけではなく、こうした意味でも期待されている。
与布土で掘り起こされた地域での体験メニューは、都市農村交流でも活かされる。交流の相手は、兵庫県による仲介で結ばれた、神戸市東灘区の本山地区だ。目指すところは、与布土を本山地域の台所に、あるいは子どもたちのふるさとにすることにある。
平成22年度、本山地域からは、「おやじの会」グループによる訪問にはじまり、児童館から子どもたちがやってきて川遊びをしたり、女性などのグループが芋掘りに来たりと、グループ単位での交流が進んだ。田舎を持たない家族が増えている都市部にあって、与布土が仮想的な故郷となって、子どもたちの成長や高齢者の癒しに果たす役割は大きい。
一方、与布土側からは、本山地域のイベント会場で農産物を販売したりもしている。人口3万人という本山地域は、与布土にとって魅力的な市場だ。本山地域にとっても、親しみのある地域からの農産物を地元で購入できるメリットは大きい。高齢化が進む都市部では、団地に住みながらスーパー等まで出かけられない「買い物難民」も生まれていると聞く。そうした対策としても、団地の広場などで行われる地場産品の販売所に期待がかかる。
都市と田舎のシーズとニーズを結びつける、地域同士のおつきあいを基盤にした、互いに喜び合えるコミュニティビジネス。与布土の挑戦は、これからの農村再生の試金石になるかもしれない。
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