2011年3月02日(水) | by 管理人 2 コメント

梶山季之の経済小説『赤いダイヤ』(1962年、集英社)に、こんな一節がある。

小豆「日本で小豆の生産地といえば、北海道であった。だいたい北海道で、全国総生産額の四割~五割を生産している。しかも本州産小豆と比べると、品質もよかった。それで穀物取引所では、この北海道産のみがき小豆二等を標準として、先物取引の対象としている。本州産の小豆は、ほとんど近県の自家消費に向けられていた。東京、大阪などの大消費地に出回るのは、すべて道産小豆である。全国市場に出回る小豆の流通量のうち、七割以上を占めているのだから、道産小豆の豊作・凶作が、相場に大きくひびいてくるのであった」

<赤い魔物>と言われた小豆相場を描いたこの小説は、翌年(1963年)TBSでテレビドラマ化され、映画にもなった。小豆の相場がその年の北海道産小豆の出来具合や流通量によって左右されることは今も変わらない。だが、柳田農園の柳田隆雄氏が復活させた「黒さや小豆」はその圏外にある。柳田氏がこの貴種を守るために「固定相場」としたからである。しかも黒さやは品質値段ともに日本一である。

丹波大納言小豆の「黒さや」とは?

この数年、丹波市では「地産地消」の掛け声とともに丹波大納言小豆の生産が奨励されている。篠山市の特産「黒豆大豆」に対して、丹波市は「大納言小豆」のブランド力向上にもつとめている。

石碑一口に大納言小豆といっても、いくつか種類がある。収穫期の豆のさや色にその特徴があり、「白さや」「茶さや」「黒さや」と地元では呼んでいる。総称して「丹波大納言小豆」と呼ぶが、そのなかでも「黒さや小豆」は由緒ある最高級品だ。角が四角ばっているので、積み上げることができるのも特徴のひとつ。その値段は、北海道産の大納言小豆の10倍近く、同じ丹波産の2~3倍高い。なぜそれほどの差があるのだろうか。

柳田隆雄さんの家のすぐそば、春日町東中に「丹波大納言小豆発祥之地」と刻した立派な石碑が立っている。いまから300年以上前の宝永二年(1705)、この地で採れる高品質の小豆に着目した藩主・青山氏が(当時は亀岡藩、後に篠山藩に移封)、精選した小豆一石を幕府に献納したところ、幕府はそれを京都御所に献上した。丹波産の小豆は形がくずれにくい、皮(腹)が割れない。御所のやんごとなきお方はその特徴を見て「大納言小豆」と命名したという。大納言は、天皇の政務を助ける高級官職で、「殿中で抜刀しても切腹は免れた」というのが命名の由来になっている。

以来、明治維新に至るまで、御所に献上された小豆はこの地に産するものだった。明治20年代には丹波大納言小豆の組合ができ、合資会社で販売した時代もあったが、綿花栽培に押されて衰退し、自家用として細々と栽培されてきた。やがて“大納言”を冠した小豆は全国各地で生産されるようになり、北海道産が相場を左右するようになったというわけである。

希少価値を固定相場で

時は流れ、2000年のある日。テレビの人気料理番組の担当ディレクターから柳田隆雄さん宅に丹波大納言小豆の照会があった。「黒さや」小豆を番組で取り上げたいので分けてほしいという。柳田家には前年(1999年)採れた小豆がわずかしか残っていなかったので、近所に訳を話して3升ほどの小豆を集めた。その半分を番組に提供したところ、放映中にも全国から問い合わせの電話が殺到した。

柳田隆雄さんの本業は建具師で、畑仕事などは母親まかせだった。反響に驚いた柳田さんは、先祖が300年も営々と築いてきた小豆の希少価値に目覚めた。在来種「黒さや」の栽培を復活させようと決意し、東中地区の近所に呼びかけ「黒さや会」を発足させた。

同年秋、農家20戸で収量2トンの黒さや小豆の収穫があった。柳田さんはその全量を農家から預かり、買い手(高級和菓子屋など)との商談にのぞんだ。その時、「腹をくくっていた」という。

「足元を見られて買いたたかれたくない。こちらが提示する価格を相手がすんなり飲んでくれるかは分らない。しかしもし先方が高いと言ったら売らないと決めていた。売れなければ2トン分の小豆を自分でかぶるしかない」と覚悟してのぞんだのだ。

その年、北海道十勝産の小豆の市場値は1kg300円、丹波市内の小豆は、農協買取り価格が1kg800円~1200円。柳田さんは、丹波大納言小豆の農協買取り価格の2倍を基準に、卸値1kg2500円と決めた。初交渉にのぞんだ業者は「目を剥いた」という。しかし結局、業者は黒さやの価値を認め、交渉は成立した。

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2 件コメントがあります

  1. やまちゃん(不良中年) より:

    おはようございます。丹波への車中です。
    一口に大納言小豆といっても、いろいろな歴史、逸話があるのですね。
    流れるような文章を一気に読ませていただきました。

    北近畿みらいの取り組みに、兵庫丹波の森協会としても注目し、
    参画していきたいと願っています。
    どうぞよろしくお願いいたします。

  2. 井川 繁仁 より:

    大納言でなくとも、丹波産小豆をいただいてから、北海道産の小豆である阪神百貨店の「ござそうろう」の小豆アンコを食べればいかに違うかがすぐ解ります。 丹波の小豆で赤飯が食べたい。 大納言なんて夢の夢ですが、、、

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