特定非営利活動法人情報社会生活研究所。兵庫県の農村部、丹波市に本拠を構えている。発足は2001年、常時接続サービスさえない地域の現状に危機感を抱いた20代から40代の若者が中心になってスタートした「シフトアップ・プロジェクト(法人化を機に現団体名に改称)」が母体だ。
名称に「情報」が入っているため、いわゆるITを活用した地域おこしに取り組んでいる団体かとみると、その全体像を見失うことになる。同法人がとらえる「情報」はテクノロジーの枠を超えて幅広い。平成17年度には地域づくり総務大臣表彰も受賞した、同法人のユニークな地域活性化活動を追う。
情報化は新しい何かではない
振り返ると、シフトアップ・プロジェクトは、この七年間で「成長した」というより、「浸透した」と呼んだ方が適切であったと、同法人代表理事の小橋昭彦は言う。正会員数はほとんど増えていないし、年間予算額も横ばいだ。では何が増えたのか。ひとつは連携する団体の数であり、もうひとつは走らせている事業の数である。
当団体がこれまで、事業を行うにあたって連携してきた団体及びスタートさせた事業の経緯を図にすると、複雑なネットワーク図のようになる。シフトアップ・プロジェクトは、ひとつの核を育てるスタイルではなく、その考え方に共鳴する仲間と新しい活動を立ち上げていく形で、現在まで至っているのである。
そこには、現在も理念として利用している「シフトアップ」の名が関係している。名前の由来は、車のギアチェンジにある。情報社会生活研究所が考える「情報化」とは、、昔からある魅力的な車体(田舎の資源)はそのままに、それを見方を変えたり伝え方を工夫することで加速する(力づける)ことと位置づけたのだ。
田舎の日常を「情報化」
同法人の考え方が、典型的に現れているのが、地元の一集落で行っている「里山ウォークデイ」というイベントだ。これは、秋の一日、集落内の民家を何軒か開放し、地図を片手に散策できるようにするイベントである。ただ、このイベントがユニークなのは、そこに決まったルートや時間割がなく、訪れる観光客の自由に任されているところだ。観光客は、地図を片手に、自分の好きな場所を訪れ、自分の好きなスタイルで過ごすことができる。
「ふるさとに里帰りしたときって、自分なりの時間でゆったりできるからこそほっとできるんですよね。それと同じように、自由にくつろいだ時間を過ごしていただきたいと思っているんです」
と小橋さんは言う。
お客様に渡す地図には、「笹舟流しの小川」や「園児の小経」など、ふだんであれば見過ごしそうなポイントが描かれている。「いたずらっこの柿」「たにしの小川」なども描かれている。
「取材に来られたテレビ局のディレクターに、これ、小橋さんの思い出を描いた地図でしょと言われました」
と小橋さんは笑った。その通り、こどもの頃に遊んだ風景を、そのままに現代の家族に楽しんでもらいたいというのが、里山ウォークデイの狙いだ。
ここに、テクノロジーはない。しかし、これも「情報化」なのだと、小橋さんは言う。地元の人が気にもとめない風景をとりあげて、小さな看板を立てておく。するとそこが、訪れる方にとって意味を持ちはじめ、田舎を知るよすがとなる。気付かなければ見過ごすものに、意味を付与する。それが「情報化」なのだというわけだ。
村のおじいさんたちといっしょに看板を立てるとき、「そうそう、ここで遊んだなあ」と地域の人が話してくれたのが嬉しかったと、小橋さん。里山ウォークデイの日には、その場所で、訪れた人に笹舟の作り方をコーチするおじいちゃんの姿があった。
日常的な風景を「情報化」することでコミュニケーションが生まれ、人と人の交流が芽生える。小川のほとりで、「笹舟はこうして作るんや」などと地域の人と訪問客の交流が始まる。なるほど、「情報化」の真の醍醐味なのかもしれない。
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