2011年2月01日(火) | by 管理人 市民参加で地域の魅力を発見―城下町を考える会― はコメントを受け付けていません

新しい切り口で

結局、2004年度をもって、「ふくちのお宝展」は終了した。

雛荒らしチラシしかし、街なかにある庶民の「お宝」を資源として活用する、という城下町を考える会の理念まで捨てられたわけではない。すでに城下町を考える会では、「ふくちのお宝展」への反省を活かす形で、2003年度から、もうひとつの布石を打っていた。

それが、「雛荒らし(ひなあらし)」である。雛荒らしは、各商店街のショーウィンドウに展示されたひな人形を見ながら歩くイベントだ。「お宝展」と同じく地図を作成し、4000部を訪問客に配布した。「お宝展」は秋に実施するのに対して、春に実施するイベントとしてスタートした。

城下町を考える会が「雛荒らし」を打ち出したのは、「お宝」がわざわざに奥から出して展示しなくてはならず負担感があるのに対して、お雛様なら毎年飾るものだから、日常的に取り組みやすいという理由からである。加えて、昔からおひな祭りに、ハロウィーンのように子どもたちがお雛様を見てまわり、ごちそうをいただいてまわるという習慣がある。新しい発想ではじめた「お宝展」に対して、「雛荒らし」は土着の風習を現代風に蘇らせるものという側面があった。

雛荒らし風景およそ1週間の期間中には、商店街各店の売場やショーウィンドウに、その店舗の主らがかつて飾ってきた雛人形が並ぶ。さらに、昼食をはさんで行う「雛荒らしウォーク」、地域の散策も兼ねて各名所を巡るスタンプラリー、フリーマーケットや雅楽の演奏、ひな人形を作る教室なども行い、にぎわう。結果的に、城下町を考える会が行うイベントとしては、雛荒らしがメインとなり、2011年で9回目を迎えることになった。

雛荒らしが今も続いている背景には、女性の力を活かしていることがあるのではないかと、大谷さんは考えている。たとえば福知山には、女性で作る地元活性化グループ「レモングラス」がある。彼女らは、男性だと前例にとらわれてしまうところを、小野小町にちなんだタオルを制作したり、「痔」に効くお守りを販売したりと、新鮮なアイデアを実現している。何と言っても、雛祭りは女性の行事。雛荒らしも、イベントを担う中心は女性だ。

街なか再発見のアイデアいろいろ

ふくちのお宝展、雛荒らしのほかにも、城下町を考える会の活動にはユニークなものが多い。その活動は、街なかの活性化を考えている他地域の団体にも参考になる。

地域資源の再発見に、当該地域のマップ作りは重要な過程だ。地図を作っていくことで、自分たちが何に価値を感じ、何を伝えようとしているかが明確になる。城下町を考える会がイベントにあわせて作ってきた「ふくちお宝マップ」「雛荒らしマップ」は、ともに地域の財産だ。

その他にも、同会が生み出した地図は数多い。2009年には「五稲荷めぐり」と題したマップを2000部発行している。福知山は商業の街ということもあって、稲荷神社が大切にされてきた。そんな街なかのお稲荷さんをめぐりながら、街を再発見しようというものだ。こうした特定の視点に焦点を絞ったマップは、同会が有志だからこそできたことかもしれない。

百景冊子2010年には、小冊子「福知山私のおもしろ百景」を出版した。こちらは、「端から端まで一本の木でできた庇のある家」「福知山踊り図の写しが描かれたシャッター」「信号のつけようがない七叉路」など、住民目線で、街のおもしろスポットを紹介する内容だ。こうした路上観察アプローチは、かつて1970年代に赤瀬川原平らが「超芸術トマソン」を提唱して以来、人気の高いコンテンツ。ふだん歩いている街角も、少し視線をずらして眺めると、新しい魅力が見えてくる。日常的な街のなかにおもしろさを発見する冊子を、投稿形式で実現したところに妙味がある。町の魅力を発見する悦びを、城下町を考える会の会員だけではなく、市民ひとり一人に味わってほしいという思いからだろう。小冊子は、商店の店頭などで300円で販売している。そのためのPOP(店頭広告)やスタンドも準備した。

稲荷めぐりまた、城下町を考える会では、福知山のみどころを紹介する「ミステリーハイク」も実施している。ハイクで紹介するのは、福知山の伏流水と生糸産業発祥の関連など、地域の特色を物語れるような場所だ。先ほど紹介した「五稲荷マップ」でも、稲荷神社を巡るツアーを行っている。それぞれの場所に物語があり、ハイクやツアーの魅力は、新しい視点で街を再発見する醍醐味にある。それだけに、各地の物語を紹介するガイドとなる人の役割は大きい。城下町を考える会のメンバーは、学芸員など専門家に聞いたりして、自分たちで学習会を開いているという。「たいへんですね」と言うと、「自分たちが楽しんでいるからできるんですよ」と大谷さんは答えた。外の人に説明するため以前に、自分たちが地域のことを知って楽しむ。その結果、よその人も来てくれたらいいくらいの気持ちでやっているのだと。この、誰かのために尽くすのではなく、自分たちで楽しむというのが、事業を継続するコツなのかもしれない。

より広い市民の参加を目指して

城下町を考える会のユニークな活動は、「前例のないこと」を心がけてきた、大谷さんらの発想力に支えられている。ただ、それは決して「まったく新しいものを持ってくること」ではないと、大谷さんは言う。今ある地域資源をどう活かすか考えるのが第一で、「こんなものでも話題になるんだ」と、外の目を加えながら掘り起してきた。

地域づくりに必要な人材として、「よそもの、わかもの、ばかもの」とよく言われる。城下町を考える会の活動にも、まさにこの「よそもの」の視線が活かされている。地元の者が何気なく見ている風景や風習でも、外の者にとって面白いと思うものはたくさんある。それを、会のメンバー自らが歩き、見つけ出していく。

こうした活動は、好きでないと務まらない。大谷さんは、先ほどの「よそもの、わかもの、ばかもの」に、「すきもの」を加えて解説してくれた。まちづくりの仲間には、この4つの項目が必要ではないだろうか。立場や役目上ではなく、ほんとう地域づくり活動が好きで参加してくれた人は、自ら汗を流し、動いてくれる。その行動力が、新しい発想と活動の原動力になる。

では、城下町を考える会の今後の課題は何だろう。

市民参加型としての協力体制の拡大だと、大谷さんは考えている。街をにぎやかにするには、年間を通じて何かが動いているといい。イベントなどでスケジュールをつめ、空き日を減らす。そうすれば、いつ来ても面白い地域となる。そのためにも、それぞれの市民が、自らイベントを企画運営し、さまざまな「動き」が街じゅうで起こっている環境を作る必要がある。

幸い、福知山は商店街の街だ。それはつまり、「お客さんに来て欲しい」という人たちの集まりということでもある。だから城下町を考える会では、イベントの際も基本的には広報と宣伝部分しか担わない。準備などは各商店にまかせ、商店自体が動くことで、自分たちのイベントであるという気概を持ってもらおうとしている。

大谷さんは自らに言い聞かせるように、「自分から盛り上げていかないと何も変わらない」と言った。考えてみれば、城下町を考える会のこれまでは、まさにこの、「自ら動く人」をどうして増やすかに取り組んだ軌跡と言えるかもしれない。さまざまな視点で事業を企画し、少しでもおもしろいと思ってくれる人を増やす。福知山に重なる新しい街と旧い街。両者をつなぎ、新しい地図を生み出すのは、街を愛しおもしろがる人々の熱意なのだ。

 

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