2011年2月01日(火) | by 管理人 手づくりで進めた新たなツーリズム―伊根の舟屋― はコメントを受け付けていません。

漁師が観光業

近年、伊根では、舟屋に格納される船が減り、岸辺の景観が変わりつつある。

漁業をやめるなどして波が入らないように舟屋の開口部をふさいだり、船を引き上げるスロープを埋めるなど、船を格納できない舟屋が増えた。また、漁業の大型化で舟屋に納めることができない船が増えてもいる。舟屋の改築などには重要伝統的建造物群保存地区指定で許可基準が設けられているが、船は対象外で、所有者の判断に委ねられているのだ。

舟屋タクシーこの状況をくい止めることは規制では難しい。漁師に60年も前の方法で漁業をやれと言っているようなものだ。地場産業である漁と町並み景観を活かした観光業の両立は伊根浦の大きな課題だ。

そんな状況下で誕生したのが、漁船を利用した漁師による海上タクシーだった。

伊根湾には、丹後海陸交通株式会社が運営する伊根湾めぐり遊覧船が3月1日から翌年の1月15日まで毎日運行している。その遊覧船と比べてこの新しい取り組みが大きく違うのは、地元漁師が案内し、伊根湾の舟屋巡りをするというところだ。

最初に行動を起こしたのは倉治成さんだった。定置網とハマチや真鯛、岩ガキの養殖を生業とする漁師だ。以前から釣り客をポイントまで案内するための釣り船を出していた。そんな案内の道すがら、釣りに訪れたお客さんが、海側からみる舟屋のすばらしさに感動する言葉をたくさん耳にしていた。もっと近くまで、もっと簡単に案内できないものだろうか。そう思い立って、2007年に不定期航路事業の許可を取り、海上タクシーとしてスタートしたのである。

海上タクシーの営業時間は午前9時から午後4時まで、営業時間までの早朝に本業の定置網漁を終えれば、漁師と観光業の両立が成り立つ。そして海上タクシーのすばらしいところは、船がつける波止場であれば、電話1本でどこへでも迎えに来てくれ、湾内を案内してくれるところだ。もちろん船頭さんの楽しいガイドつきである。

伊根浦発信館 おちゃやのかか

倉治成さんが海上タクシーを始めた2007年、お客さんは年間150人だったが、今や年間2,000人もの観光客を案内するまでに成長した。

現在、海上タクシーを運航するのは、倉治成さん所有の成洋丸(定員11名)、鍵堅吾さん所有のハービー(定員11名)、倉盛雄さん所有の碧海丸(定員6名)、山田敏和さん所有の亀島丸(定員9名)の4隻。回を重ねるにつけ、舟屋の案内にも熱が入る。テレビや新聞で取り上げられる機会も増え、伊根浦の歴史や伝統などに質問が及ぶので、あらためて調べ上げることも始めた。

おちゃやのかかそうして観光客の質問に答える準備を重ねるうちに、今まであたりまえのことと思っていたことが、観光客の興味をかきたてていることに気づく。すると今度は、「伊根浦の漁業資料を残して観光客に見てもらおう」と思い立った。

それからは、地域の人たちに呼びかけ、漁業資料を展示する民俗資料館を作ろうと進めた。そして2009年、伊根町亀島の空き家となっていた建物を改修して、伊根浦発信館「おちゃやのかか」が完成する。「おちゃやのかか」とは、地元でよく捕れるハゼ科の魚にちなんでつけられた名前だ。営業日は水曜日の午前10時から午後5時、土・日曜日は午前8時から午後5時まで。一階では土・日曜日に地元農家から寄せられた野菜や卵の販売も行っている。

二階が漁具資料の展示となっているが、所狭しと置かれた昔ながらの漁具は漁師の船小屋にやってきたような素朴さが良い。「もっときれいに整理して展示したいけれど時間がなくて」と倉さんは語るが、そこは手作りの良さである。入館料は、資料館協力金200円。まだまだこれから皆で作り上げていく最中というのが見受けられ、1年後2年後にまた訪れてみたい気持ちが湧いてくる。

観光資源は海でも山でもそれぞれどの地域にもある。それを大手のイベント会社や建築家やプランナーに任せると、きっとおしゃれな建物ができマニュアル通りの資料館になりがちだ。

倉さんは「お金が無いから仕方なく皆に手伝ったもらったんです」と言う。しかし、皆が作り上げていく過程こそが地域力になっている。

 

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