2011年3月03日(木) | by 管理人 理想と現実の狭間で続く挑戦―株式会社田舎元気本舗― はコメントを受け付けていません

丹波カルデン・丹波ツーリズムが目指すところ

では、平野さんが本来、新しく「商売」にしようとしたのは何だったのか。

丹波に移住する前、平野さんは、西宮から姫路郊外にある市民農園に7年間通い続けていた。畑のすぐ近くに常設テント(インディアンのティピー)をつくり、1泊2日の週末農業を楽しんだ。その時間には「からっぽの充実感」があったという。

カルデンそうした平野氏の体験から生まれたのが、遊休農地を活用した丹波カルデン(借る田)という新たなビジネスモデルである。この仕組みを簡単に言えば、企業向けの市民農園のようなものだ。企業利用を想定しているため、利用者(企業)が畑作業に通う回数は、個人の趣味利用ほどは見込めない可能性がある。そこで、畑に通う回数が月1回程度でも、農家が管理を支援することで運営できるようにする。料金設定は、その管理の支援度合いによって設定(たとえば1反で60~70万円)。2009年春からスタートした農商工連携事業では、地域資源を掘り起こした体験を売りとした「丹波ニューツーリズム」とともに丹波カルデンをPRしていった。

丹波ニューツーリズムと丹波カルデンの最大の特徴といえば、「企業の福利厚生や社員研修に活用してもらう」という点にあり、企業や団体を市場ターゲットとしている。この発想はたしかに目新しく、農商工連携事業認定でも注目されたポイントだった。しかし、平野さん自身にニーズへの確信があったわけではない。

そこで平野さんは、農商工連携事業の認定を受けてからの二年間、企業人に的を絞った農業体験塾のモニターツアーを6回ほど実施してアンケートを集め、自身が行った講演などでも感想を聞いた。その結果、社員の福利厚生に活用できるという回答は多かったという。

こうしたアンケート結果を受けて、二年目には丹波カルデンをさらに磨き、農場体験だけではなく、その体験の意味を深く学ぶことができる研修室型の講義も組み合わせ、丹波カルデンを明確に法人向けとして定義してパンフレットを作成、企業向けに告知した。

研修また、丹波ニューツーリズム分野では、阪神圏の大手企業の従業員組合からひきあいがあり、20名ほどが、座禅体験や里山ウォークなどを含む、日帰りの丹波体験にやってきて好評を博している。

ならば手応えがあったということではないのだろうか。

「調査で見えてくるのは、あくまでも潜在ニーズであって、実際に活用するかということになれば別問題です」

平野さんは言う。「潜在的ニーズのあるところにどんどん出向いて営業をかけないとビジネスになりません。その活動がまったくといってよいほど出来ていないのです。言い訳ではなく一人で手が回らないというのが実情です」

儲かるようになって、オンラインショップならその店長、ツーリズム分野なら営業担当を置けるようになると、状況も変わるのだが、と平野さんは言う。今は生活のために、本業である編集の仕事に注力せざるを得ず、営業にまわる時間がとれないのだ。しかし、企業理念でうたった理想を失ったわけでは決してない。

「当社の理念・理想はあくまでも企業の福利厚生。農業体験や自然に触れるツーリズムは社員の元気を引き出せると思っているし、企業人にこそ農業への理解を深めてもらいたいという願いがある」

3、4件ではあるが、丹波カルデンやニューツーリズムへの企業からの引き合いもある。「企業のニーズは小さいかもしれないが、これを理解する企業経営者は必ずいる。企業に活用してもらうためにも丹波ニューツーリズムのメニューも充実させなくてはいけない」

最後に平野氏は、本音らしいことをポロっともらした。

「まぁ、丹波ニューツーリズムと丹波カルデンは当社の旗印のようなもの。これで儲かるとは思っていないけど、理念の旗を降ろすわけにはいけない。商売のほうは農産物の販売でやるしかないし、農業の営みそのもののように根気よくやるしかない。牛の歩みのようにね」

試行錯誤が続く、田舎元気本舗。社名に盛り込まれた、「田舎」を「元気」にするための挑戦が、今日も続く。

 

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