2011年3月03日(木) | by 管理人 理想と現実の狭間で続く挑戦―株式会社田舎元気本舗― はコメントを受け付けていません

「西宮から丹波に移住してまる6年になりますが、まさかこんな活動をすることになるとは思ってもみなかった」

平野さん株式会社田舎元気本舗の村長(代表取締役)こと平野智照さんは、そう言って苦笑した。「そもそも晴耕雨読の田舎暮らしを求めていたのに、移住して2年目におせっかいで始めたことがきっかけで」

と言う。そのおせっかいというのは、『たんば田舎暮らしファーラム実行委員会』のこと。平野さんが発起人兼事務局長となって、田舎暮らしのPRのため都市部(大阪、宝塚、西宮、神戸など)に向け、3年間で5回開催してきたフォーラムである。

「フォーラムのアンケートで、田舎に暮らしたいけど仕事がないという声がたくさんあった。そのことを神戸のある企業家に相談したところ『田舎de起業研究会』を立ち上げようということで、言い出しっぺの私がその世話人になった」

研究会を重ねるうちに、平野さん自身が、田舎元気本舗を起業する流れになった。「十名ほどの株主は研究会のメンバーと関係者ばかり、株の配当は農産物です」

と笑う。「農業と地域の活性化というのが目標ですが、商売人でもないのに余計なおせっかいを始めてしまったというのが正直なところですね」

そう言う口調は、半分冗談、半分本音といったところか。ちなみに平野さんは、出版企画編集を行う有限会社あうん社を経営している。何冊かの著作を持つもの書きの一面も持つ。少なくとも今は、「晴耕雨読の生活からは程遠い心境」には違いない。

起業理念と商売の壁

そもそも平野さんはどうして田舎元気本舗を設立しようと考えたのか。同社のホームページから、企業理念を引用しよう。

食と農”はひとつ、いのちの根幹です。ところが日本の農業はますます衰退するばかり、世界の食糧危機さえ叫ばれる今、こんなに農業をダメにしている先進国はありません。食と農を守り育てる田舎の自然環境や地域資源は、かけがえのない国民共有財産です。安全・安心な“食”を供給する元気な村々が、全国各地に広がることが社会全体の元気、ひいては地球環境の保全にもつながります。(株)田舎元気本舗は、理念を共有できる人たちと協力連携しながら、“食といのち”を支えてくれる田舎(地域)と都市をむすび、次世代につなぐ活動(交流)を続けてまいります。

設立当初の平野さんの熱い思いを伺える文章だ。ところが、創業4年目を迎えた今、平野さんは大きな壁にぶつかっているという。どういうことだろうか。

そもそも平野さんは、田舎元気本舗を、ある種のコミュニティ・ビジネスと考えて起業したという。自らが移住した丹波地域の農業を元気にするため、農家の出荷する農産物を集配し、都市部の消費者に販売する。これが、起業時のビジネスモデルだ。株主への配当を農産物とうたっているあたりも、そうした気持ちの表れかもしれない。それを認める株主たちということでもあるだろう。

だが、コミュニティ・ビジネスとはいえ、ビジネスである以上、売上と利益を追求しなくてはならない。しかし、その商売が下手なんですよ、と平野さんは言う。

「いま一番の壁は資金面ですが、自分自身が商売人になりきれないという壁もある。シーズばかり追いかけずニーズのあるところへ行けと言う株主もいます。現実問題として農産物の販路開拓をしないと会社は立ちゆかないのだからそれもわかります」

たとえば、起業して開店したオンラインショップで、平野さんは、自らがいいと思った農産物だけを並べ、販売した。累計で数十名からの注文があったが、拡大はしていない。既存顧客へのメール対応をできていないことなどもその理由かもしれない。株主からはこうした姿勢が、「顧客に求められていないことばかりしている」と映っているようだ。

そんな株主の紹介で、2010年度から、大型店に農産物を出荷するようになった。ニーズのある大型店に商品を卸そうというわけである。ところが、いざ販売するとなると「農業はお天道様次第で、供給が不安定でままならない」と平野さんは悩む。はじめは丹波の農産物だけを集荷して大型店に出荷していたが、それだけでは品目が足りず、近隣の農産品も扱うようになった。

売場の在庫管理も、手間がかかる。そんなこともあって、実際に商売をすることの辛さを実感する毎日だ。言い訳かもしれないと断りつつ、平野さんは言う。

「理念を忘れて価格競争ばかりのニーズを追いかけるつもりはない。とにかく丹波ブランドを大事にして、ニーズにも対応するけれども、見えないシーズを開拓しなくてはいけない。」

農商工連携の認定を受けて

田舎元気本舗は、2008年12月、創業2年目にして農商工連携事業の認定を受けた。事業名は、「黒さや大納言小豆作りの技術と遊休農地を活用した丹波ニューツーリズムの開発と提供」。

展示会これは、柳田隆雄さんが主宰する「黒さや会」と連携し、そのノウハウを活かして、新しいツーリズム商品を開発し、観光としての農業ビジネスを起こそうというわけである。農産物販売に続く、田舎元気本舗としての新分野の開拓である。農商工連携推進法という法律が同年春に施行されたばかりで、「観光部門」としては全国初の認定だった。

「事業を推進する中小支援機構の担当者と面識があり、相談したところ意外にもすんなり認定された。全国初というので責任も感じましたが、こういう国の助成金を使うのは初めての経験だったので戸惑うことが多く、事務処理の煩雑さには参りました」

連携を受けての利点は何だっただろうか。

「大きなメリットといえば、社会的信用力を得た、知名度が上がった、丹波地域資源活性委員会というのをつくり多方面の人材の協力を得るとができた、この3点かな」

では、本来の目的であるツーリズム商品の開発とビジネス拡大はどうだったのだろう。認定一年目、田舎元気本舗は、商談会にブースを設けて「丹波ニューツーリズム」の告知を行ったり、「田舎 de 起業研究会」ルートでニーズ調査を行ったり、モニターツアーを行って反応を探るなど、ビジネスチャンスの拡大を図った。

しかし、補助金そのものが開発支援型という性格もあり、実際に商談に結びつくまでの営業は困難だった。「いろいろやった割にはビジネスなっていない。忙しい思いをして、せっかくの認定を活かしきれなかった」

そのためもあるのだろうか。協働相手である柳田さんからは、農家にとって夢のある展開になっていない、という指摘もされている。現状のやり方では、黒さや会にメリットのある形になっていないことは、平野さんも認めている。

結局、5年間という認定期間ではあったが、3年目となる2011年度は助成申請しないことにした。助成はありがたい反面、見えない意思に縛られている感じできゅうくつだと、平野さんは言う。

「国の税金を無駄にしたら申し訳ないし、また助成金があると何となく甘えが出てしまう気がする」

そして見えてきたのは、「やはり商売というのは自主自力でやらないといけないなと。ひとつの壁を乗り越えたらまた壁が現れる。どこまでいっても壁というのはあるわけだから」

ということ。助成金に頼らず、自らの自由な裁量で挑戦したいと考えている。

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