ジオパークとは、科学的に見て重要で貴重な地質遺産を核にした地質公園。世界遺産と比べて知名度はまだ低いが、単なる保全のための制度ではなく、観光資源として活かすジオツーリズムを通じて、地域社会の活性化を目指した制度というところに特徴がある。
北近畿では、山陰海岸が世界ジオパークネットワークに加盟認定されたところだ。山陰海岸国立公園を中核に、日本列島がアジア大陸の一部であった時代の岩石から、今日に至るまでの経過を確認できるところがユニーク。いわば、日本列島誕生の物語をたどることができる「公園」である。対象エリアは、東は京丹後市経ケ岬から、西は鳥取市白兎海岸まで。東西約110km、南北最大30kmに及び、関連する地域も、京都府(京丹後市)、兵庫県(豊岡市・香美町・新温泉町)、鳥取県(岩美町・鳥取市)と複数にまたがる。
ジオツーリズムをプチ体験
ジオパーク、京都府側の様子を確かめてみようと、12月20日、京丹後市は間人(たいざ)の旅館「寿」を拠点に、同館が手配したマイクロバスに乗り込み、丹後ミニジオツアーに参加した。
この日は、あいにくの冷たい雨の日。傘を差しながらのジオスポットめぐりとなった。ガイドを務めてくれたのは、NPO法人全国まちづくりサポートセンター丹後支所のボランティアガイドさん。ガイド用のジャンパー、マイクと案内用ツールは揃えてある様子だ。
はじめに、「もっと知りたい伝えたい 丹後の魅力」というガイドブック(税込960円)を購入。丹後の歴史、名所旧跡をまとめたものだ。これを見ながら、ガイドの案内を楽しみながら、マイクロバスでまわっていく。
城嶋
周囲約4キロの自然公園。足利時代の武将・荒川武蔵守知時は天正年間に城嶋へ居城を構え、漁業を領民に奨励したと言われている。道すがら、「間人(たいざ)」という難読地名の由来などを聞きながら、現地に向かう。
降りて海岸を見ていると、雨の中、岩場に立っている人がいる。ガイドさんが何か訪ね、われわれの方に駆け寄ってきた。
「深海魚が打ち上げられているんですよ」
この地域でも珍しいことだという。岸壁からは細かい姿までは見とれないが、そんな珍しい光景に出くわしたことに、雨だったからこそか、なんて軽口が出て、参加者一同、思わず揃って深海魚に向けてシャッターを切っていた。
立岩
周囲約1キロ、高さ約20メートルの安山岩の大きな一枚岩。1500万年前にできた、地元のシンボル的な岩。京丹後市ジオスポットのなかで随一のみどころである。西側からと正面と東側の大成古墳群からの三方から見ることが出来て、それぞれ違った立岩を見ることができる。
海に注ぎこむ川は、立岩をかすめて流れ出しているが、これが季節によって、立岩の右にそれるか、左にそれるか変わるのだという。1500万年という時間的スケールの一方で、この年間を通して変わる自然の営みにもまた、楽しさを感じる。
大成古墳群
竹野川と海とが接する海岸の東側の切り立った崖の上に築かれた古墳群。西側には立岩が見え、東側には筆石の海岸段丘が見える。また古墳群の突端からは縦に伸びた幾筋もの柱状節理と呼ばれる岩が見られ、ジオパークを肌で感じる事ができる。
しかしながら、ガイドブックなどには乗っておらず、突端の岸壁は、なんということもない小道の先にある。ガイドさん自身「こちらに案内しようとすると、そんな方に行ってなにがあるの、と聞かれるんですが」と言いつつ、案内してくれる。そして、その先の絶景である。これは、地域の方に案内してもらわないと分からない。
もちろん、そんな場所にも、ジオパークの案内看板は立っている。これら案内看板の充実も、ジオパーク認定には必須だ。
屏風岩
屏風のようにそびえる高さ13mもある奇岩。夕日をバックにした屏風岩はとても美しく、多くの写真愛好家が訪れているという。季節によって様々な景色が見られる。
屏風岩の丘側(筆石の海岸段丘)には滝がみられることがある。これはなんでも幻の滝だそうで、それが幸い、この日は雨ゆえに楽しむことができた。これはあるいはガイドさんにうまくのせられているのかもしれないが、それはそれで、雨の日も楽しませてくれるガイドの腕ということだろう。
丹後松島
日本三景の松島に似ている事からそう呼ばれるようになった。リアス式海岸で、各島、小岩に名前がつけられ、ビングシ、タカシマなど小島が連なっているように見えるが陸続きになっている。松の木と海と岩がうまく合っている。
ジオツーリズムの運営
当日はあいにくの雨。しかし、深海魚が打ちあげられていたといったようなハプニング、あるいは屏風岩の滝のように、そういう天気でしか楽しめない風景というのも、ツアーの魅力のひとつだろう。
ただ、それもガイド役の人が、打ち上げられた魚を見ていた地元の人とコミュニケーションして、それがおもしろいと思って参加者に教えてくれたからこそ。
何も知らない者にとっては通り過ぎてしまうような風景も、立ち止まり、歴史や物語を聞きながらまわると多くの驚きと発見があり、旅が数倍楽しくなる。いかに地元の協力が必要かということかもしれない。
このように、ジオパークでは、ツーリスト向けのインタプリテーション(ガイド)も、加盟審査の際の評価項目になっているという。
京丹後市には多くのジオサイトがあり、特に丹後町間人にある城嶋から経ヶ岬にかけての海岸線は様々なジオスポットがある。今回はバスに乗って陸からの案内だったが、春から秋にかけて、丹後町中浜から出港する「とび丸タクシー」は、海からジオサイト雄大さを感じることができるという。
これらのジオツーリズムで、主に丹後の地域ガイドを行っているのは、参加したプチツアーでもガイドを務めてくれた、「NPO法人全国まちづくりサポートセンター丹後支所」である。平成18年の結成で、丹後の素晴らしさ、そこに住む人達の元気良さを内外に発信しようと活動している。活動は、「地域ガイド塾」「ネイチャーガイド塾」の二つで構成されており、会員はどちらかに属している(両方の人もあり)。現在、会員は50名で。京丹後市全域から有志が集まってきているという。
このうち、「地域ガイド塾」は、月2回の定例会を開催し、室内での地域の歴史学習、ガイドの話し方講習、ガイドスポットでの実地研修をおこなっている。昨年の山陰海岸ジオパークの世界ジオパーク認定で、ジオサイトでのガイドの要請が増えてきているという。
京丹後市による「まほろばぐるり旅」というイベントがある。5月~11月の間に18回開催されたものだが、このイベントでも、塾生はボンネットバスに乗り込み、ガイドを行った。方言を交えながら、丹後のガイドスポットの歴史、文化、伝説などを詳しく案内する。
ガイド料金は2時間5名まで2,500円、5名以上は1人500円となっており、上限は10名まで。10名以上は要相談で、予約は1日前まで可能(当日不可)。丹後町観光協会、道の駅、各宿から予約できる。
一方、「ネイチャーガイド塾」は、山野草を中心にガイドをおこなう。月2回の定例会で室内学習、京丹後市全域に出かけて、山野草の学習をしている。
主な活動は、毎週日曜日「丹後あじわいの郷」での園内の山野草、花などのガイド。また、犬ヶ岬の遊歩道にある山野草のガイドも行っている。山野草から切り口にしたジオの説明もあり、ジオツーリズムの工夫も見られる。
観光振興の枠を超えて
今後、全国まちづくりサポートセンター丹後支所では、ジオツーリズムに加え、エコツーリズムも視野に入れていきたいという。実際、琴引浜などでは、古くから、砂浜を守るために多くの地元住民やボランティア参加による清掃活動など、自然環境保全の取組が実施されている。豊かな自然や里山の暮らしの知恵の体験などをたいせつに、ツーリズムに取り組んでいきたいという。
また、学校学習への活用も課題だ。たとえば、郷村断層は、小学校や中学校などの校外学習の教材として積極的に活用されている。毎年3月には、丹後震災記念展が開催され、1927年に起こった北丹後地震による震災当時の遺留品や被災物・写真などを展示、発生日時にあわせてサイレンを鳴らしている。東日本での大きな地震を受けて、地質遺産を通して、こうした地震と暮らしの関連を学ぶことの重要性は高まっているのではないだろうか。
このように考えていくと、ジオツーリズムは、観光誘致といった産業振興の枠を超え、環境保全から地震と生活学習まで、幅広いフィールド体験を提供できる可能性を秘めている。
カニや水泳などに次ぐ新しい地域資源として、ジオパークにかける期待はますます大きい。