2011年3月30日(水) | by 管理人 1 コメント

チャネルを開拓する

当初農夢は、生産量の3分の2を京都市の中央卸売市場に出していた。品質管理の努力のかいもあって、他の産地の水菜と比べても、最高値をつけてもらっていると塩見さんは言う。

しかし塩見さんは、当初から直接販売の比率をできるだけ増やしたいと考えていた。品質の維持やコスト意識は、自分で売値を決められてこそ芽生えると知っていたからだ。売値が市場の相場で決まる商売では、知恵を出したり工夫をしたりというインセンティブがはたらかず、品質を改善したり、採算性を高めることが難しい。これでは農業に対する楽しさや意欲も出てこない。

実はこうした考え方は、従来のように農協に依存した農家では珍しい考え方だ。これまで農家は、売値は農協に任せ、自分は作ることに専念して農協におさめれば良かった。それはそれで農家にとって安心な仕組みだが、ビジネスの本当の魅力は、自分で売り先を決め、自分で値段を決めることにこそあると、塩見さんは考えている。農夢が、そんな農業への起爆剤になればいい。

こうして農夢の取引先は、徐々に直接販売の比率が高めていった。現在では約半分が直接販売である。納品先は、京都市内のホテルやレストラン、スーパーなどのほか、名古屋など遠隔地もある。こうした直接販売の比率を高めることは、売上の固定にもつながり、経営が安定する。ふれあい牧場

同時に、農夢は地元の取引先を大切にしている。市立病院、老人ホームなどと直接取引し、地元スーパーにも、多いときには1日100キロ出荷している。一方で小さな単位で相談を受けることもある。塩見さんは従業員に、それがどんなに小さな取引であっても「ありがたく注文をいただいて、必ず所定の時間にお届けしなさい」と言っている。地元のお客様に商品を納入するということは、農夢設立に手を貸してくれた人たちに、農夢の品物を評価してもらう機会を提供することと考えるからだ。それが地元への貢献にもつながると、塩見さんは考えている。

また農夢は、事務所をおく綾部ふれあい牧場内の「ふれあい食堂ハイジのキッチン」に水菜を納品している(ふれあい食堂の経営は別企業に委託)。目玉は、水菜のサラダだ。おかわり自由で、たっぷりと農夢の京みず菜を味わうことができる。これも、農夢の品物への評価を期待してのことだ。

今後の方針

農夢が利用している農地は、地元から借りたものである。パートにも地元の女性が多い。60代の人もいる。平成22年の夏は記録的な暑さで、ビニールハウスでの作業は重労働だった。そこで塩見さんは、彼女たちの健康を考え、ビニールハウスでの作業時間を制限し、スポーツドリンクを置いて、好きなだけ飲むように伝えた。

これは、農夢が従業員を大切にしているエピソードのひとつにすぎない。そんな塩見さんの思いを知ってか、女性たちは、「ここにくれば大勢の人と仕事ができ、元気をもらえる」と笑う。「人生が変わった、長生きしそう」と、軽口をたたき合っている。そんな笑顔に塩見さんは、自分の方が元気をもらっているという。出荷作業風景

農夢は、第1段階である、黒字化とブランドの確立を達成した今、第2段階を目指そうとしている。視野に入れているのは、品目の多様化と、加工品の開発というふたつの方向である。

前者については、京みず菜で経営基盤を固めたらと、かねてよりテストを重ねているミニトマトや露地栽培分野だ。また、後者は、漬物など、水菜の加工を研究中だ。すでにテスト出荷を行い、品質や必要数量などについての評価を収集している。

インターネット販売もしたいが、加工品などが整わないと、水菜だけでは単価が低く難しい。一方で、今後は自然環境の変化に対応できる栽培技術力はもちろんだが、冷凍技術も研究したいという。冷凍技術があれば、必要な量を必要なとき、必要なところに提供できる。

塩見さんに、地域再生に取り組む人へのアドバイスを尋ねた。

「夢を実現させるには、好きなものを追い続けることです。どの分野にも専門家はいます。個人でやらずに大勢でやれば、きっと夢は実現できる」

そう言って、優しい目を細めた。その眼を見てふと、農夢の大規模経営は、ほんとうに冷徹なビジネス判断が生んだのかと自問した。大規模経営は、多くの人との協働を伴う。

そして塩見さんの視線の先にあるのは、ここで働く女性たちの笑顔だと、なぜだかそのとき、すとんと胸に落ちたのだった。

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1件コメントがあります

  1. 笹島 利江 より:

    突然のメールにて大変失礼いたします。
    私、東京都在住の笹島と申します。

    実は今、所有しております田んぼが長い間休田になっておりまして、
    購入していただける業者様を探しております。

    場所は、福井県大野市です。
    田んぼについて下記のホームページを作りました。
    http://sasajimatei.echizen-ono.jp/nochi

    大野市の農業地帯は、
    「上庄さといも」という里芋の産地として名は広まっておりますが、
    ここでとれる米もまた県内では上質でおいしいと昔から定評があります。

    地元では若い農業後継者も少なく、
    買い手がなかなか見つからないため、
    何か新しい方法で休田を利用していただける業者様がないかお探ししておりまして、
    御社のホームページを拝見いたしました。

    田んぼは、山すそ近くに広がる広大な農業地帯の中にあり、
    そばを清流が流れています。
    面積は5730.00㎡あります。

    もしご興味を持っていただけましたら、
    田んぼの様子を詳しくご説明させていただきますので、
    一度ご連絡をいただければ幸いです。

    よろしくお願い申し上げます。